京都地方裁判所 昭和42年(レ)76号 判決 1968年6月26日
控訴人
京都三菱自動車販売株式会社
代理人
加藤正郎
被控訴人
北村康彦
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実<省略>
理由
一(争いがない事実)
次の事実は当事者間に争いがない。
(一) 控訴人(自動車販売業者)は、被控訴人(金融業者)に対し、昭和四一年二月二八日、本件自動車を代金六七三、〇〇〇円で売渡し、その支払方法等につき次のとおり約した。
(1) 内金一〇八、〇〇〇円は契約成立の際、現金および被控訴人所有車下取りによつて支払い、残金は、昭和四一年三月から昭和四二年一〇月まで二〇回に分割して毎月末日に金二八、二五〇円あて支払う。
(2) 被控訴人が賦払金の支払を完了したとき、控訴人は本件自動車の所有権を被控訴人に移転するものとする。
(3) 控訴人は契約成立と同時に本件自動車を被控訴人に引渡し、これを被控訴人に使用させる。
(4) 被控訴人が、賦払金の支払を怠り、控訴人の適法の催告に応じないときは、控訴人は、残債務全部につき期限の利益を失わせてその即時支払を請求し、又は契約を解除することができる。
(5) 控訴人が、契約を解除し、本件自動車の返還を受けた場合、被控訴人は、賦払金未払残金と返還時の本件自動車の評価額との差額を損害賠償として支払う。
(二) 被控訴人は、約定の金員を支払つて本件自動車の引渡を受けたが、昭和四一年五月分以降の賦払金の支払を怠つた。
(三) 控訴人は、昭和四一年六月八日、被控訴人より本件自動車を取戻した。
(四) 控訴人は、被控訴人に対し、昭和四一年六月二六日到達の内容証明郵便で本件販売契約解除の意思表示をした(控訴人主張の第二の解除)。
(五) 控訴人は、被控訴人に対し、昭和四一年一〇月一九日発信その頃到達の内容証明郵便で、賦払金未払残金五〇八、五〇〇円を同年一一月一〇日まで支払うことを催告し、右支払なきときは契約を解除する旨の催告並びに条件付契約解除の意思表示をした(控訴人主張の第三の解除)。
二(第一および第二の解除の効力)
控訴人が割賦販売法にいう割賦販売業者であることは、<証拠略>により明らかであり、本件自動車は同法にいう指定商品である(同法施行令第一条別表二六)。
割賦販売法第五条は、「割賦販売業者は、指定商品に係る割賦販売の契約について賦払金の支払の義務が履行されない場合において、二十日以上の相当な期間を定めてその支払を書面で催告し、その期間内にその義務が履行されないときでなければ、賦払金の支払の遅滞を理由として、契約を解除し、又は支払時期の到来していない賦払金の支払を請求することができない(第一項)。前項の規定に反する特約は、無効とする(第二項)。前二項の規定は、指定商品に係る割賦販売の契約であつて購入者のために商行為となるものについては、適用しない(第三項)。」と規定し、本件当事者間に作成された自動車所有権留保割賦販売契約書(甲第一号証)第一八条にも、同法第五条第一項第三項と同旨の記載がある。
よつて、本件自動車割賦販売契約が購入者である被控訴人のために商行為となるものか否かについて判断する。
被控訴人は金融業者であるが、金融行為は商法第五〇二条第八号の「両替其ノ他ノ銀行取引」に該当しないから、被控訴人は商人ではない(最高裁判所昭和三〇年九月二七日第三小法廷判決、民集第九巻第一〇号一四四四頁参照)。
控訴人は、「被控訴人は、金融業者として、絶対的商行為である商法第五〇一条第四号所定の手形行為を営業としてする者であるから、商人である」と主張する。
しかし、手形行為は、商人概念の基礎となる商行為とならない、と解するのが相当である。けだし、手形行為の性質から考えて、「営業として手形行為をする」ということは、理論上成立せず、営業としてこれをなしうるのは、手形を目的とする売買等の実質的行為であるからである。(被控訴人が営業として手形の売買をしている事実を認めうる証拠はない)
したがつて、本件自動車割賦販売契約は、購入者のため商行為となるものでないから、控訴人主張の第一の解除(昭和四一年六月八日、本件自動車取戻しと同時)は、かりに右解除の意思表示があつたとしても、二十日以上の相当な期間を定めてその支払を書面で催告しないでなしたものとして、無効である。
控訴人主張の第二の解除(同年六月二六日)も、第一の解除と同じく、催告しないでなしたものとして、無効である。
三(第三の解除の効力)
本件のように、自動車割賦販売業者が自動車を購入者に販売契約締結と同時に引渡し使用させる旨約定した場合、購入者が賦払金の支払を遅滞したため、販売業者が購入者の承諾を得ないで自動車を購入者より取戻したとき、販売業者は、自動車を購入者に再度引渡さないかぎり、自動車取戻し後支払期日の到来する賦払金についてはもとより、自動車取戻し当時すでに遅滞にあつた賦払金についても、解除の前提として有効な催告をすることができない、と解するのが相当である。
控訴人は、「控訴人が本件自動車を被控訴人より取戻すについて、被控訴人の承諾を得た」と主張する。<証拠説明省略>
控訴人は、「被控訴人は、本件自動車の引渡を受けた際、預り証(甲第二号証)を差入れ、あらかじめ、本件自動車の取戻しを承諾している」と主張する。
しかし、右預り証の「万一当方が約束不履行の場合は約定に基き直ちに返却す致べく私不在中であつても随時貴社に御引取下さつても異議はありません」との記載は、前記割賦販売契約書第一九条の「本契約が解除されたときは、乙は本件自動車の使用権を失い、直ちに本件自動車検査証又は届出済証を甲に持参返還するものとする。乙が直ちに本件自動車を返還しないときは、甲又はその代理人は予告なく本件自動車所在の土地建物に立入り本件自動車の占有を回収し、これを搬出することができる。乙はこれを妨げることが出来ないばかりでなく家宅侵入、損害賠償その他の異議を主張することはできない」との記載と同じく、契約が有効に解除された後の関係についての約定であると解するのが相当である。(本件において右約定の効力を判定する必要はない)
したがつて、控訴人主張の第三の解除は、本件自動車を購入者に再度引渡さないでした催告にもとづくものとして、無効である。(控訴人主張の第二の解除も、控訴人が本件自動車を被控訴人の承諾なく取戻した後であるから、控訴人が本件自動車を被控訴人に再度引渡さないかぎり、解除の前提として有効な催告もできない場合である)
なお、控訴人が本件自動車を取戻した当時(昭和四一年六月八日)、被控訴人は、支払期日同年五月末日の第三回賦払金二八、二五〇円の支払を遅滞していたにすぎないのに、控訴人は、前記催告において、自動車取戻し後支払期日の到来した賦払金のみならず、未だ支払期日の到来していない賦払金を含めた未払賦払金全額を催告している)
四(結論)
よつて、本件契約解除の有効を前提とする控訴人の本訴請求は、失当として、これを棄却すべく、原判決は相当であるから、本件控訴を棄却し、民事訴訟法第八九条を適用し主文のとおり判決する。(小西勝 杉島広利 竹原俊一)